2010年09月23日

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    (3)


夏になると、僕は泳ぎたくなる。でも、夏の海とプールは僕には縁のない話しだった。

エネルギーを発散するために、僕はロードレースを選んだ。

北海道で毎年開催される「サロマ湖車椅子100kmロードレース」が目標だ。

去年は50Kmに出場した。そのレースでは、左手の故障と手のひらの「まめ」に泣かされた。

腕力をつける、これが今季の課題だ。

特に左手。

左手の親指と人差し指に力が入らない。昔、手首を切った後遺症だった。

手術で腱を繋いだが、今だにつっぱり、二本の指が思うように動かない。

キーボードを叩きすぎるとすぐに指が動かなくなる。

 

今年から、ベンチプレスを増強した。週一のコース練習でも、上半身をバランス良く体重移動に使うよう心がけた。

流れる汗だけが、僕の自己満足だ。誰の助けも要らないし、誰かに助けられるのが嫌いだ。

レース仲間とも、滅多に口をきかない。僕は心を閉ざす。おあいそ笑いが煩わしい。

 

日記。

“ 今日は車椅子で40Kmを走破したよ。

今年の夏は、軽井沢で80Kmに挑戦するんだ。

そして、秋には北海道で100Kmだ。サロマ湖の周りを100Km! これが僕の夢。

いつもは、東京の西にある障害者スポーツセンターで練習している。最高に美人のコーチがいるんだ。ふふん♪

昔の映画でランナーが海岸を走る場面が有ったね。イギリスの映画でさ。題名は忘れたけれど、音楽が良かった。

コーチは、あの音楽が好きでね、いつもプレーヤーから流しながら練習を見ているんだ。

最高だよ。 ”

 

彼女からのメール。

「“マイサリ”の影響は、特に妊娠3−5ヵ月で大きく出るというデータがありました。

しかも、それは、販売前から分かっていたようです。

企業秘密かも知れません。マウスのデータですから、すぐに人間にも影響するとは当時は考えなかったのかも知れません。

昨日の映画のタイトルは「炎のランナー」。私は「長距離ランナーの孤独」という小説も好きです。 かしこ 」

 

企業秘密? マウスのデータ? どうして、そこまでやってくれるのだろう?

 

僕からのメール。

「いつもメールをありがとう。でも、どうして、そんなに一生懸命調べてくれるの? それに、企業秘密だって?!

大丈夫かい? 繰り返し言うけれどね、僕は本当に、本当に今ではなんとも思ってないんだ、この体のことは。

おふくろのことを悪く言うのは眠れぬ夜だけだよ。だから、そんなに無理をしなくてもいい。

それよりも、きみの好きな映画について、もっと書いて送ってください。では、また。

PS.僕も長距離ランナーの孤独は好きです。」

 

日記。

“ 昨日の映画のタイトルが判明! 「炎のランナー」だ。う〜ん、そうだったね。懐かしいよ。時計の鐘が鳴り終る前に中庭を1周する場面。

沢山の人から、タイトルを教えてくれるメールを貰った。ありがとう!

暑くなってきたね。僕は水の中には入れないけれど、みんなは、楽しんでいるかい?

海辺でのデートはどうだい? うまくいったかな?

湘南は今日も渋滞だったね。サザン オール スターズが誘う甘い世界に二人で行けたかい?

さー、今日の出来事だ。

アスファルトも溶ける歩道は、車椅子を利用している僕らには「熱波」の源だ。

みんなより、熱波の源に近いところを移動しているんだぞ。

お陰で僕は、今日もイオン補給飲料を飲み続けだ。

手のひらも汗ばんで、火傷しそうだよ。ところで僕がロードレースを選んだのは……”

 

その日の日記を書くと、僕は「長距離走者の孤独」を読み、炎のランナーのテーマ曲を聴きながら眠りについた。

一人でも寝苦しい暑い夜だった。朝方まで、寝返りばかりをうって眠れなかった。

もし、あの製薬会社がマウスのデータを秘密にしていなかったら、僕の足は普通だったのだろうか?

もし、おふくろが薬を飲まなかったら、今ごろは恋人と海の見えるホテルの部屋で星空を見ていたのだろうか?

波音が耳元に響いてくる。一人で朝を迎えるのが怖い。 一生誰にも愛されないのかも、と思うと泣き出したくなる。

 

誰も僕を好きにはなってくれない。僕は誰も好きになんかなれない。

 

(4)

 

彼女からのメール。

「マウスで障害児が産まれることは、繰り返し実験で確かめられたようです。だから、会社は“確信犯”だと思います。

このデータを公にすれば、きっともっと多くの賠償金が貰えるのではないでしょうか?

私がこのデータをインターネットで公開するというのは、どうでしょう? あっ、これは聞かなかったことにしてもらっても構いません。

あなたをこんなことに巻込むのは良くないですね。

私の好きな俳優はロビン・ウイリアムス。好きな音楽はエンヤ。 好きな食べ物はアイス。乙女座のA型よ。

頑張り屋のあなたなら、水泳もできるのでは? 私は泳げないけれど、応援ならできます。

素敵なコーチにはなれそうもないけれどね。   かしこ」

 

僕からのメール。

「メール、読みました。マウスの実験の件、驚きました。でも、驚いただけです。

インターネットに公開するのはいいのですが、もし、きみが秘密を漏らしたことが、会社にばれたらまずいでしょう?

賠償金も、僕はそんなに欲しくありません。

賠償金が増えたところで、足は治らない、ね? そうでしょ?

それよりも、きみが困ったことになるほうが心配です。

だから、もし、僕のことを考えてのことだったら、結構です。何度も言うけれどね。

そんなことをやるより、代わりに、どうぞ困っている車椅子の人がいたら声をかけてやってください。では、また。

PS. 水泳は無理です。僕の体にはそんな機能がありません。」

 

日記。

「僕はいつも赤いヘルメットをかぶって練習してる。

最近は、軽くて丈夫な素材で出来た長距離レース用車椅子が売っているんだ。

それでもってさ、その車椅子が目茶苦茶高いんだよ。こらー! 障害者用の車椅子なんだからもっと安くしろ!!

いくらレース用の特別仕様だと言っても、ちょっと高すぎないか?!

でも、まぁ、しょうがないかな。こんな車椅子を作っている人も全国でたった一人。

需要と供給のバランスから言っても高くなるよね。贅沢の極みだ。

今日の筋肉トレーニングの練習ではベンチプレス50kgを30回。ヒィーヒィーだよ。

コーチはいつもの青いTシャツに、ピンクのジョギングパンツ。 いつものように最高だ!

暑いね。トレーニング室はサウナのようだった。近くの大学のプールでは水泳部が合宿をやっているようだった。

駅の三角屋根が入道雲を背にしてた。夏、真っ盛り……。」



彼女からのメール。

「薬の承認申請には、現在では、催奇形成試験(さいきけいせいしけん と読むのだそうです)のデータを出すことになっているようです。

これは、妊娠中に薬を飲んだ時に奇形児が産まれるかどうかの試験です。

“マイサリ”の頃はこの試験データの提出は義務づけられていなかったとのことです。

ただ、製薬会社では自主的に、この試験をやっていたようね。

その後、いろんな薬で、“マイサリ”のような薬害が有って、このデータの提出が義務づけられたそうです。

どうして、初めから、こうなっていなかったのかしら。

試験データを公開することは、ただ今、考え中。

“マイサリ”のために、あなたのような方が日本に5000人はいらっしゃるのです。

会社では、とにかくこの患者さんたちが、成人するまで毎年賠償金を支払っていました。

でも、皆さん、今は成人になられて、賠償金が支払われていないのでしょ?

もし、賠償金が貰えたら、長距離レース用の車椅子も買えるのではないかしら?

きっと、これも余計なお世話ね。

でも、とにかく、こうしてこの会社でこのまま働いて確信犯の片棒をかつぐのはイヤ。

インターネットで、障害者の方のスポーツやパラリンピックに関連するサイトを見つけました。

下記がそのURLです。あなたと同じような方が、水泳の日本代表として頑張っています。ご参考までに。

http://web.archive.org/web/20020105224854/http://www.jsad.or.jp/

今週のお薦めの映画は、「いまを生きる」。私の好きなロビン・ウイリアムスが主演です。

彼はいつも優しい声で話すの。彼の笑顔が好き。     かしこ」

 

日記。

「僕は水泳選手として、日本代表選手になりたいんじゃないんだ。

みんな、誤解しないでくれ。

ただ平凡に、海に行って砂浜を恋人と歩きたいんだ、手を繋いでね。

ただ普通に、プールサイドでアイスクリームを食べたいだけさ、水着でね。

車椅子ではトイレに行けないプールが多い。

そもそも、デートの最中にトイレに行くにも、誰の手を借りればいい? 恋人に?

出来る訳が無い。

トイレで誰が僕を支えてくれる? 恋人が?

もう、いい。明日はいつもの通り、障害者スポーツセンターで筋肉トレーニングだ。

夏はサザンオールスターズ、冬はユーミン。

スキーもいいよね。二人でペンションに行ってね。

車椅子が使えるペンションが全国に一体、何軒あると思う? みんなは、知っている?」

 

彼女からのメール。

「あなたの笑顔は素敵でした。ロビン・ウイリアムスに負けないくらい。

赤いヘルメット、お似合いでしたよ。コーチもあなたがおっしゃるようにとても素敵な方ね。

(私には勝てそうもないかも。^.^)

あなたの上半身は筋肉の固まりで、とても逞しく思えた。

汗だくのあなたを見て、今度はタオルを持参しなくちゃ、と思いました。

車椅子かっこいいね! あんなにスポーティなものだとは知りませんでした。

いつ軽井沢で80Kmのレースがあるんですか? 絶対に、応援に行きます!!

プールでも、海にでも行きませんか? ……私も自信がないけれど。      かしこ」



(上へつづく)


posted by ホーライ at 21:26| Comment(0) | e-mail | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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     (2)

 
「私は製薬会社に勤めています。私の会社が作っていたのが、“マイサリ”です。

私が産まれる前の話です。でも、今、私はその会社に勤めています。

会社の仕事でインターネットを検索していたら、偶然、あなたのホームページがヒットしました。

そして、あなたの日記を読みました。

実は、私は薬が専門ではありません。私は英文科を出ています。

だから、どうして私の会社の薬があなたに影響したのか、正直なところ分かりません。

これから勉強します。そして、どうしたらいいのかを考えます。

勉強したら、また、メールを送ります。あっ、お忙しいでしょうから、お返事は結構です。かしこ」

可能な限り、僕は彼女からのメールに返信した。

でも、この最初のメールにだけは困った。「どうしたらいいのかを考える」?

どうするつもりなんだろう? 僕自身はどうして欲しいのか、さっぱり分からなかった。

 

僕のメール。

「メールをどうもありがとう。そうですか、“マイサリ”の会社にお勤めですか。

僕のために“どうしたらいいのか”を考えて頂けるとのこと。

僕には“どうしたらいいのか”という選択肢が有るようには思えませんが……

でも、お心づかい、ありがとうございます。

また、日記の感想をお待ちしています。」

 

日記。

“ 今日、メールを貰った。この日記の読者らしい。なんだか、僕の生い立ちと関係がありそう?

勉強したら、またメールをください。待っています。

そして、いつも、この日記を読んで頂いている皆様、メールをありがとう。全部、目を通しているよ。

ところで、今日の健康診断で、面白いことが有った。

心電図の技師のお姉さんが、僕の足首のところまで電極を苦労して引張りあげていたときだ。

(僕の“足首”はみんなより、ずっと上にあるんでね。)

そのお姉さんが、感嘆詞とともにこう言った。

「あなた、お酒が飲めないでしょう?!」

「どうして、分かるんです? 心電図が真面目だから?」

「ハハハッ、ほら、腕が真っ赤よ。」

採血のためにアルコール綿で腕を消毒したが、その跡が真っ赤になっていた。

僕は動く“アルコール検知管”だ。君は? ひょっとして動く“アルコール分解酵素”かい?

ここで、クイズだ…… ”

僕のところには、彼女のメールがただ一通届いているだけだったが、指が「皆様」と打ってしまう。



彼女のメール。

「こんにちは。

“マイサリ”は、本当は不良品だったようです。 あの薬はラセミ体だったとのことです。ラセミ体というのは……」

2通目のメールが次の日に届いていた。勉強家なんだ、彼女は。

 

彼女のメール。

「ラセミ体というのは、右手の化合物と左手の化合物が混ざっているものを言うそうです。

本当は、同僚に聞いたので、このへんのことは良くわからないの。

とにかくラセミ体は同じ化合物でも、右手と左手のように重ねあわせても、全く重ならないものを言うのだそうです。

“マイサリ”は右手と左手があったけれど、そのうち、「左手の“マイサリ”」だけが、「問題有り」だったそうです。

でも、あの当時は、まだ科学が発達していなくて、それが分からなかったの。

もし、右手の“マイサリ”だけを取出すことができ、あなたのお母さんがその右手のほうだけを飲んでいたら、良かったのにね。

今では、右手の“マイサリ”だけを作ることも出来るそうです。

また、メールを出します。昨日の日記に書いていたクイズの答えは“カサブランカ”。かしこ。」

 

ふ〜ん、映画が好きなんだ。

「夕べはどこにいたの?」

「そんな昔のことは忘れた。」

「今夜は何をしているの?」

「そんな先のことは分からない。」

 

僕のメール。

「“マイサリ”のこと、ありがとう。薬に右手と左手があるなんて知らなかったな。本当は、どんなものなのか想像できないんだけどね。

映画が好きなのですか?どんな映画が好きなの?今度は映画のことも教えてください。では。」

 

日記。

“ 夕べは、蒸し暑かったね。みんな、眠れたかい?

そう、OK。僕も大丈夫、いつもの通り爆睡さ。

クイズの答えを送ってくれた皆様、どうもありがとう。

正解は「カサブランカ」だ。正解の人には、プレゼントとして、“映画で覚える英語”サイトのURLを送るね。

ところで、薬にも右手と左手が有るなんて、知っていた?

僕はもちろん知らなかった。

どうやら、僕の足が短いのは、「左手の“マイサリ”」のせいだったらしい。

僕はてっきり、意思の弱いおふくろのせいだと思っていたよ…… ”

 

彼女のメール。

「昨日の日記に、抗議します!!

あなたの体は、お母さんのせいではありません。お母さんは、どこも悪くない。

あの当時は、妊娠中に薬を飲むと障害児が産まれるなんてことは、誰も知らなかったのよ。

だから、あなたが産まれる瞬間まで、あなたがどんな様子で産まれてくるのか、お母さんも知らなかったはず。お医者さんにだって。

「意思が弱い」こともないと思う。誰だって、苦しいときには、薬を頼ると思います。

絶対に、あなたのお母さんは、悪くない!!……悪いのは私の勤めている会社かもしれません。調べてみます。

映画は好き。最近はビデオで見ています。なかなか、映画館に行く時間がないのが寂しい……。かしこ」

 

僕は、ずっとおふくろを怨んでいた。

おふくろさえ、あの時、薬を飲まなければ僕は別の人生を歩いていたはず。

製薬会社を怨んだことは無かった。

調べる?  一体、何を?

調べても、僕の体がどうにかなるものでもない。

 

僕のメール。

「おふくろは、僕のおふくろです。僕が30年以上どう思ってたか、あなたには理解できないのでは?

それに、今更、“マイサリ”のことを調べても、どうなるものでもありません。あなたの貴重な時間を無駄使いするだけだと思います。

大丈夫、僕はあなたの会社のことなど、どうも思っていませんので。

ただ、あの時、おふくろが薬を飲むことをちょっと我慢してくれていたら、と思っているだけです。

お心づかいは、大変ありがたいですが、そこまでやって頂かなくても結構です。では。」

 

日記。

“ 親の恩は、山よりも高く、海よりも深いってね、昔の人は言ったものです。

でも親が自分の苦痛から解放されるために、子供に不幸を与えてもいいのかね。

さて、今日の新聞から「車椅子」用の高速バスが登場! ――遅い! 遅いよ。公共の乗り物が…… ”



もちろん、彼女からは抗議のメールが届いた。プリントアウトすると、A4で2枚だった。

返信はどうしたものか。きっと、どう書いても理解してもらえないんだろう。

車椅子の修理に出かけよう。僕の夏は例年通り、ロードレースの練習で終わるだろう。

本格的なレースの前にスポークの修理をしておこう。

滲む汗を拭きながら、街の歩道を車椅子で身体障害者スポーツセンターに向かう。

 

夏は僕が嫌いな季節だ。

つづく 

【注意】

これは完全にフィクションである。映画名、音楽名、俳優名、小説名は実際に存在するものだが、「マイサリ」は実存しない。
「マイサリ」と類似する名称があったとしても、偶然である。
ただし、「サリドマイド」という薬により、奇形児が産まれた薬害事件は実際に有った。
二度と同じ悲劇が起こらないように。二度と繰り返しませんように。


(上へつづく)


posted by ホーライ at 21:25| Comment(0) | e-mail | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

e-mail(1)

(1)

 
目を開ける。

「何を考えているの?」

「別に、何も……。」

目を閉じる。

 

(どうして、好きになったんだろう。)

目が沁みる。

(……いつからだろう?)

 

目を開ける。優しい眼差しが見つめている。

「何を想っているの?」

「何も……。きみは?」

微笑みながら、聞く。

「別に。」

首を右に傾けながら、答える彼女。

イタズラッぽく笑っている目。

「それで、いつから?」

「いつからだろう。あるところから、っていうのは難しいよ。気がついたら好きになっていた、かな。」

頷く、彼女。

「そもそも、僕のホームページの感想をメールで送ってくれた時が予想外だった。」

「そう? 感想を書くのは義務でしょう。」

「義務ね。」

強がりで、shyでpureな彼女が笑う。

「感想を書いたので、送ったの。あのホームページに有ったメール用アイコンからね。

私にはとても自然なことだったけれど。」

僕があのホームページを立ち上げてから4ヶ月。

 

目を閉じる。

優しい笑顔が目に沁みる。

天使が微笑んで、僕を見ている。

彼女の言葉が心に沁みる。

 

ほんの気紛れから立ち上げたホームページ。

あの頃、僕は全てに飽いていた。

中途半端な仕事。大きすぎる組織。一変した環境にも体と心が拒否反応を示していた。

(ホームページを無料で作ることが出来る? 暇つぶしに、丁度いいや。何をテーマにしようか。ピンボールの起源と歴史、小説と絵画の相似、能の舞台芸術について、音楽とスポーツは両立するか、ビールの歴史、ビートルズ……。まぁ、なんでもいいや。一番、ネタが続きそうなのは、う〜ん、自分か?)

僕は、紙の日記に書くように、その日の出来事を書くことにした。

これなら、何も考える必要は無い。今日の出来事を書く。感情も批判も無しで、事実だけを書いてもいい。

6月の寝苦しい夜だった。まず、自分の生い立ちを書いた。

“ やぁー、こんにちは。今日から日記を書きます。

まず最初に何故、僕の両足が短いのかを書いておこう。

「マイサリ事件」はもう歴史の彼方に消えているよね。覚えているのは30代以上だ。この目まぐるしい社会では、3ヵ月がニュースの賞味期限。

僕が母親に宿って4ヵ月目に、彼女は不眠症になったんだ。始めての赤ん坊で気が張り詰めたんだろうね。

それで医者に言ったのさ、「眠れないので、何か薬を」ってね。

処方された薬が「マイサリ」。今じゃ、売ってない。

何故?

奇形児が生まれるからさ。

そう、それで僕がいるんだ。

これから、どこにでもいる僕の日常を書くことにした。

みんな、暇なら読んでおくれ。

今日の話題は、人事制度と身体障害者について…… ”

 

ホームページで日記を書き始めて1ヵ月後、メールが届いた。僕が立ち上げたホームページの読者からの「初めて」のメールだった。

「私は製薬会社に勤めています。私の会社が作っていたのが、“マイサリ”です……」

あっ、こんな名前の会社だったけ? それがfirst impression.

それから毎日一通のメールが必ず届いた。

どうして?

それが、彼女の優しさ?

とにかく、必ず、一通は届いた。たとえ彼女が二日酔いでも、だ。

「ギリギリ虫が頭の中を這いずり回っています。ところで、今週のお奨め映画は……」

お酒が飲めない僕に、二日酔いの辛さは想像できなかったが、ギリギリ虫が這いずり回っている感じは分かった。

彼女の言葉が好きだ、それがsecond impression かな?


(上へつづく)

posted by ホーライ at 21:23| Comment(0) | e-mail | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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