2010年09月23日

e-mail(1)

(1)

 
目を開ける。

「何を考えているの?」

「別に、何も……。」

目を閉じる。

 

(どうして、好きになったんだろう。)

目が沁みる。

(……いつからだろう?)

 

目を開ける。優しい眼差しが見つめている。

「何を想っているの?」

「何も……。きみは?」

微笑みながら、聞く。

「別に。」

首を右に傾けながら、答える彼女。

イタズラッぽく笑っている目。

「それで、いつから?」

「いつからだろう。あるところから、っていうのは難しいよ。気がついたら好きになっていた、かな。」

頷く、彼女。

「そもそも、僕のホームページの感想をメールで送ってくれた時が予想外だった。」

「そう? 感想を書くのは義務でしょう。」

「義務ね。」

強がりで、shyでpureな彼女が笑う。

「感想を書いたので、送ったの。あのホームページに有ったメール用アイコンからね。

私にはとても自然なことだったけれど。」

僕があのホームページを立ち上げてから4ヶ月。

 

目を閉じる。

優しい笑顔が目に沁みる。

天使が微笑んで、僕を見ている。

彼女の言葉が心に沁みる。

 

ほんの気紛れから立ち上げたホームページ。

あの頃、僕は全てに飽いていた。

中途半端な仕事。大きすぎる組織。一変した環境にも体と心が拒否反応を示していた。

(ホームページを無料で作ることが出来る? 暇つぶしに、丁度いいや。何をテーマにしようか。ピンボールの起源と歴史、小説と絵画の相似、能の舞台芸術について、音楽とスポーツは両立するか、ビールの歴史、ビートルズ……。まぁ、なんでもいいや。一番、ネタが続きそうなのは、う〜ん、自分か?)

僕は、紙の日記に書くように、その日の出来事を書くことにした。

これなら、何も考える必要は無い。今日の出来事を書く。感情も批判も無しで、事実だけを書いてもいい。

6月の寝苦しい夜だった。まず、自分の生い立ちを書いた。

“ やぁー、こんにちは。今日から日記を書きます。

まず最初に何故、僕の両足が短いのかを書いておこう。

「マイサリ事件」はもう歴史の彼方に消えているよね。覚えているのは30代以上だ。この目まぐるしい社会では、3ヵ月がニュースの賞味期限。

僕が母親に宿って4ヵ月目に、彼女は不眠症になったんだ。始めての赤ん坊で気が張り詰めたんだろうね。

それで医者に言ったのさ、「眠れないので、何か薬を」ってね。

処方された薬が「マイサリ」。今じゃ、売ってない。

何故?

奇形児が生まれるからさ。

そう、それで僕がいるんだ。

これから、どこにでもいる僕の日常を書くことにした。

みんな、暇なら読んでおくれ。

今日の話題は、人事制度と身体障害者について…… ”

 

ホームページで日記を書き始めて1ヵ月後、メールが届いた。僕が立ち上げたホームページの読者からの「初めて」のメールだった。

「私は製薬会社に勤めています。私の会社が作っていたのが、“マイサリ”です……」

あっ、こんな名前の会社だったけ? それがfirst impression.

それから毎日一通のメールが必ず届いた。

どうして?

それが、彼女の優しさ?

とにかく、必ず、一通は届いた。たとえ彼女が二日酔いでも、だ。

「ギリギリ虫が頭の中を這いずり回っています。ところで、今週のお奨め映画は……」

お酒が飲めない僕に、二日酔いの辛さは想像できなかったが、ギリギリ虫が這いずり回っている感じは分かった。

彼女の言葉が好きだ、それがsecond impression かな?


(上へつづく)

posted by ホーライ at 21:23| Comment(0) | e-mail | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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