新しい一年が始まった。
私がこの携帯を持ち始めて1年。
携帯電話とインターネットで私の人生が変わった。
これまでなら知り合えないような人たちとも知り合いになれた。
そこでの交流を、今のパートナーは知らない。
彼は仕事から帰宅すると新聞を読み、テレビを見て、時間が有ればネットにもつなぐ。
彼のネットを通しての友人を私が知ることもない。
毎日の平凡な人生が嫌いなわけでも、今の生活に不満がある訳でもない。
子供達も徐々に私の手から離れてきている。
新しい人生を考えてもいい。
主婦として母親としての役割が間もなく終える。
妻としての役割がいつ終わるのかは分からない。
そこに終止符を打つつもりが私の心の中に有るのかも分からない。
ただ、あの人との交流も持ちつづけたい。
この関係がいつ終わるのか、どのようにして終わるのか、考えてみることもある。
でも、いつもそれは想像できなかった。
携帯メールをやり取りし、ごくたまに食事をしデートをする。
5年後の生存率にどんな意味があるのかも分からない。
私の5年後?
一年後すら想像できなかった。
あの人と巡り会うことも一年前には分かっていなかったのだから。
自分とパートナーと子供達の年齢だけがはっきりとした数値として分かるだけ。
私の5年後の生存率は、きっとあの人と変わらない。
世界中の人とも変わらない。
5年後の世界に私が存在する確率は不明……。
今年の私の目標は、自分のライフワークを見つけること。
どんなささいなことでもいいから。
私が存在するために必要なライフワーク。
あの人は50歳で会社を辞め、自分の夢を追いかける。
私も少しはそれをサポートできるかも知れない。
でも、私の夢の代わりにはならない。
今年はイタリアにでも行ってみよう。
もう何度か行ったことがあるので友人も多い。
新しい世界を見れば、視野も少しは開ける。
新しい出会いが、また私を新たな世界へ連れて行ってくれるかもしれない。
新しい一年を迎え、まだ活気が戻っていない街へ出かける。
駅前にある本屋で、イタリアの本を買った。
本を抱え、近くの神社に初詣を兼ねてお参りにゆく。
おみくじを買っている時に、あの人からのメールが届いた。
『癌が再発。来月オペの予定』
携帯電話を見つめた。
北風で携帯を持つ手が冷たくなるまで。
(上へつづく)