2010年09月23日

携帯メール(6)

     (6)


新しい一年が始まった。

私がこの携帯を持ち始めて1年。
携帯電話とインターネットで私の人生が変わった。
これまでなら知り合えないような人たちとも知り合いになれた。
そこでの交流を、今のパートナーは知らない。
彼は仕事から帰宅すると新聞を読み、テレビを見て、時間が有ればネットにもつなぐ。
彼のネットを通しての友人を私が知ることもない。

毎日の平凡な人生が嫌いなわけでも、今の生活に不満がある訳でもない。
子供達も徐々に私の手から離れてきている。

新しい人生を考えてもいい。
主婦として母親としての役割が間もなく終える。
妻としての役割がいつ終わるのかは分からない。
そこに終止符を打つつもりが私の心の中に有るのかも分からない。
ただ、あの人との交流も持ちつづけたい。

この関係がいつ終わるのか、どのようにして終わるのか、考えてみることもある。
でも、いつもそれは想像できなかった。



携帯メールをやり取りし、ごくたまに食事をしデートをする。
5年後の生存率にどんな意味があるのかも分からない。
私の5年後?
一年後すら想像できなかった。
あの人と巡り会うことも一年前には分かっていなかったのだから。

自分とパートナーと子供達の年齢だけがはっきりとした数値として分かるだけ。

私の5年後の生存率は、きっとあの人と変わらない。
世界中の人とも変わらない。

5年後の世界に私が存在する確率は不明……。



今年の私の目標は、自分のライフワークを見つけること。
どんなささいなことでもいいから。
私が存在するために必要なライフワーク。

あの人は50歳で会社を辞め、自分の夢を追いかける。
私も少しはそれをサポートできるかも知れない。
でも、私の夢の代わりにはならない。


今年はイタリアにでも行ってみよう。
もう何度か行ったことがあるので友人も多い。
新しい世界を見れば、視野も少しは開ける。
新しい出会いが、また私を新たな世界へ連れて行ってくれるかもしれない。

新しい一年を迎え、まだ活気が戻っていない街へ出かける。
駅前にある本屋で、イタリアの本を買った。
本を抱え、近くの神社に初詣を兼ねてお参りにゆく。

おみくじを買っている時に、あの人からのメールが届いた。


『癌が再発。来月オペの予定』

携帯電話を見つめた。
北風で携帯を持つ手が冷たくなるまで。


(上へつづく)

posted by ホーライ at 21:51| Comment(0) | 携帯メール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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